人的資本経営とは?注目される背景、人材の価値を引き出し、企業価値を上げるには

人材を大事にして投資するイメージ写真

近年「人的資本経営」という、人材を「資本」として捉え、人の価値を最大限に活かす新たな経営スタイルが、欧米を中心に多くの企業、更には日本の投資家からも関心を得ています。
人的資本は、人材を投資し、育んでいくという、ビジネス戦略手段です。人的資本経営を用いることによって、中長期的に企業価値を高めていく事が期待されています。

この記事では、なぜ人的資本経営が世界中で注目されているか、人的資本経営の背景やその考え方、実践するための具体的な取り組み方、経営改革のステップを紹介していきます。

人的資本経営とは?

人的資本経営とは、人材を「資源」や「コスト」として捉える従来のやり方ではなく、人材を「資本」や「投資」という考え方から、人の価値を最大限に引き出す、新たな経営のあり方です。人を「消費」するのではなく、投資の「資本」として捉えることによって、従来の企業の人材との向き合い方を変えていきます。この人材戦略により、企業の中長期的な価値向上が見込まれます。

日本のビジネス界や経営者の間で人的資本経営が注目されている理由として、欧米諸国の経営手法が関係しています。欧米では2020年8月に、米国証券取引委員会(SEC)によって、人的資本の情報開示が義務付けられ、すでに多くの欧米の上場企業では、経営戦略と人材戦略を連動したビジネスモデルが使用されています。

日本では経済産業省が、持続的な企業価値の向上をめざす「人的資本経営の実現に向けた検討会」を設置しました。2022年には人的資本経営を進めるための有効なアイデア・視点をまとめた「人材版伊藤レポート2.0」を公表し、一気に注目が集まりました。

企業の人材に対する関心がますます高まり、人的資本の情報開示など、「人」そのものを重視する経営スタイルは、特にこれからの時代に適合した取り組みであると言えます。

従来の経営戦略と人的資本経営の違いとは

では、従来の経営戦略と人的資本経営の基本的な考え方の違いを見ていきましょう。

人材を管理の対象ではなく、価値を生み出す資本として捉える

従来の経営では人材を「コスト」として捉えているのに対し、人的資本経営は人材を「投資」の対象として捉えています。

人材を「資源」として管理するのではなく、「資本」として従業員を活用、成長させていく、よりクリエイティブなマネージメント方法が、人的資本経営の特徴です。

この人材に対する捉え方の違いが、人的資本経営の理解を深めるポイントです。

経営戦略と人事を分離させず、人材戦略を経営に統合する

人事制度の運用が主だった状態から、自社の価値を上げるための人材戦略として位置付けています。人材戦略では、企業と従業員が、互いに選び選ばれる、自律的な関係を築くことで持続的な企業価値の向上に繋げます。

年功序列や終身雇用から、自律的な雇用関係へ

企業が従業員を囲い込み、従業員も企業に依存せざるおえないような制度(年功序列・終身雇用)ではなく、企業と従業員がオープンに対話できる雇用コミュニティを、人的資本経営では目指しています。
流動性のない人材戦略から、学び合いやリスキリング(新たな能力、専門性を習得すること)によって従業員が自主性を伸ばし、対等な立場で会社と対峙することを重視します。

また、企業が新たなサービスや、プロダクトの創出イノベーションの厳選として、人材を捉え直します。

過去の経営環境を前提とせず、変化への対応力を重視する

個人と組織の関係に積極的な対話を設け、従業員それぞれの力や経験を尊重することで、個の価値を最大限に活用していく事が、人的資本経営の特徴です。
企業の経営戦略を実現していくためにも、従業員がやりがいを感じるような、自発的に仕事に取り組む環境を創り上げる必要があります。

仕事起点ではなく、人起点の「動的な人材ポートフォリオ」を構築することで、人材を育成、配置転換することが求められます。従来の経営戦略では、従業員の画一期的な育成方法が主流でしたが、人的資本経営においては、個の能力やポテンシャルを見定め、職務や難易度も検討しながら、人材を個別に育成・分析することが推奨されます。

人的資本経営が注目される背景

人的資本経営が注目される背景には、環境や社会に配慮した企業活動を求める世界的な潮流の変化があります。

ESG投資やSDGsの浸透

人的資本経営の背景として、ESGとSDGsが並んで挙げられます。

ESG投資とは、「環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)」を配慮した企業に投資することで、売上高や利益といった財務的なメリットだけではなく、地球環境や企業の持続可能性にも貢献するといった点があります。

SDGsとは、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」。地球、企業、経営、人材において持続可能で、より豊かな未来を実現していこうという、国連サミットで採択された、2016年から2030年までの世界共通で必要な17の目標です。

人的資本経営が注目される背景には、ESG投資やSDGsの企業への浸透が影響しています。
企業がESGに配慮した活動、ESG投資をすることは、結果としてSDGsへの貢献にも繋がります。
SDGsの目標には人材育成や働きがいなど、人的資本経営が掲げている目標と共通する部分が多くあります。持続可能なビジネスを構築することは、同時に持続可能な人材と組織の関係を築き上げていくことを意味します。

SDGs、ESGに取り組むことは、企業のブランディング向上にもなり、世間や投資家から「持続可能な成長が見込める」と良い評価をもらえる傾向にあります。

また、従業員も社会、地球に対しての貢献の意識が高まり、彼らのモチベーションを向上することにもなります。SDGsやESGを観点にビジネス展開をしていくことによって、従来にはなかった新鮮なアイデアが見込まれます。

投資家からの期待

人的資本経営に関する情報は、投資家にとって企業の将来の成長を予測する重要な視点となっています。

投資家は企業を支えている人材を、財務と同じように企業の資本として重要視しています。人的資本の情報開示が、これからますます投資家にとって大切な判断材料となっていくでしょう。

働き方が多様化するなかで、優秀な人材を確保する

人的資本経営は企業の価値を上げるだけでなく、従業員のエンゲージメントや満足度、幸福度にも繋がります。

SDGsの17の目標の1つに「働きがいも経済成長も」というのがあります。
経済の成長はもちろん、働く人も幸せに、持続可能に働ける環境を配慮していくことも、促進しています。働きがいのある人間らしい仕事(ディセントワーク)が提唱されています。

人的資本経営の考え方もSDGsとリンクするところがあり、性別、年齢、国籍、雇用形態、ライフスタイルなどの違いを尊重し、従業員それぞれの多様な生き方に合った働き方を応援しています。多様な働き方、生き方、そして多様な価値観を尊重し、お互いを認め合う考え方によって「個」の価値を最大限に引き出すことが可能になっていきます。

VUCAの時代で企業が成長するための戦略

近年は「VUCA(ブーカ)の時代」と言われています。VUCA(ブーカ)とは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の4つの単語の頭文字を並べた言葉です。社会環境の複雑性が増し、想定外の出来事が起こり、将来の予測が困難な状況を指します。

新型コロナウイルスの感染拡大や急激なIT革命において、企業を取り巻く環境は大きく変化しました。既存の価値観や常識、ビジネスモデルが通用しなくなり、柔軟性がある組織づくりが企業では求められてきています。柔軟な思考をもった人材たちが、お互いの多様な価値観を認め合い、変革を起こしていくことが重要となっていきます。

VUCA時代においては、人的資本経営が求められています。
雇い主が労働者に「指導」するのではなく、「対等な対話」をすることによって、個々の仕事に対するモチベーションを高め、組織のビジョンを実現するエッセンスとなるでしょう。

人的資本経営への取り組み方

人的資本経営に取り組むために必要なステップを解説します。

経営戦略と人材戦略を統合させる

自社のパーパス(存在意義)や中長期的に目指す目標、企業理念を定め、そのために必要な人材像や人材ポートフォリオを明らかにします。
重要な視点として、未来の理想像からバックキャストさせ、必要な人材投資を戦略に落とし込むことです。

現状と理想とのギャップを把握する

まずは、現状と理想の状態を明らかにする必要があります。
将来の経営戦略を支える人材の現状を定量的なデータで把握し、目指す姿(To be)と現在の姿(As is)のギャップを客観的なデータで捉え、どのようにしてギャップを埋めていくのか分析します。
理想に近づけるためにどのような時間軸で、どのようなアクションを行うかを明確にした上で、適切な人材投資、人材戦略を行う事が重要です。

定量化して進捗と成果を測る

人的資本への投資を行った結果、目標に向けた進捗や効果はどの程度あったのかを定期的に把握することが重要です。
人材戦略においては、理想と現実のギャップを定量的に把握・評価することが求められます。
定量化することで、人的資本への投資がROIのように数値化され、戦略の見直しやPDCAを回すことに繋がります。

時間や場所にとらわれない働き方を推進する

時間や場所にとらわれない働き方ができるかどうかは、多様な従業員が本来の価値を発揮できる重要な素地となります。
新型コロナウィルスの感染拡大をきっかけにリモートワークが普及してきましたが、今後も従業員が能力を発揮しながら裁量を持って働く職場づくりが企業の業績や事業継続の視点からも重要になるでしょう。

リモートワークをただ実践するだけではなく、円滑なコミュニケーションが行えるよう、環境や業務プロセスを改善していったり、人材をマネージメントする必要があります。

まとめ

人的資本経営は、人材の価値を最大限に活かす経営手法です。従来の雇用主が労働者に仕事を与えて指導をするというスタイルではなく、企業と個人が対等な関係でいる事がポイントです。経営戦略と人事戦略を同期させることによって、持続的な企業価値の向上に繋がります。変化の激しい今の時代に対応するためにも、人材マネージメントにおいては、企業と個人の関係性を見直していく必要があるでしょう。

まずは従業員の自発性を促すためにも、主体的に働ける環境創りや、社内の積極的な対話を取り入れてみてはいかがでしょうか。

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