新人研修は行っていても、配属後の育成が十分にできていない、せっかく採用した人材が定着せずに離職していくなどの課題を抱いている企業担当者も多いのではないでしょうか。
リモートワークの浸透に伴い、新入社員にとって企業理念を理解したり、社内ネットワークを築いたり、スムーズに業務に慣れて能力を発揮したりすることはますます難しくなっています。
この記事では、アメリカ発祥のオンボーディングが日本で注目されている背景や、オンボーディングによる離職率の低下や従業員の満足度・生産性の向上などのメリットを解説します。
実施する際の具体的なポイントを交えながら詳しく紹介するので、自社で取り入れたいけれど何から始めたらいいか分からない、という人にも参考になります。
オンボーディングとは?
ビジネス用語におけるオンボーディングとは、新入社員がいち早く組織に順応し、能力を発揮し成果を出せるようサポートする一連の取り組みのことです。
この「オンボーディング」という名称は、「飛行機や船などの乗り物に乗っている」ことを意味する「on-board」という英単語に由来しています。
新入社員を同じ飛行機や船に乗る乗組員と捉え、これから共に旅をする仲間として、組織全体で成長をサポートしていくという意味が込められています。オンボーディングは近年急速に普及しており、企業存続における非常に重要な取り組みとして注目を集めています。
オンボーディングが注目されるようになった背景
オンボーディングが注目されるようになった背景には、離職率が高止まりしている状況があります。厚生労働省が発表している資料によると、新入社員の3年以内の離職率は以下のとおりです。
平成30年3⽉新規学卒就職者の離職率 中学卒・・・・・・・・55.0% 高校卒・・・・・・・・36.9% 短大卒・・・・・・・・41.4% 大学卒・・・・・・・・31.2% |
離力率が最も低いとされる大学卒の就職者でさえ、30%以上が入社3年以内に離職しています。データによると、平成22年度から継続して新規大学卒就職者の3年以内離力率が30%を超えており、高止まりの状態です。
また、中途採用者の3年以内離職率も近年では30%程度を推移し続けており、早期の離職傾向は未だに改善の兆しが見えていません。企業が人材採用にかけるコストも年々増加傾向にあるため、早期離職による企業側の損失は甚大です。
そこで、早期離職者の離職理由を調査すると、主な要因として以下の理由が挙げられます。
- 業務内容、社風、待遇などにおける入社後のギャップを感じたため
- 人間関係になじめなかったため
- やりがいを感じられなかったため など
これらの離職理由に対してはいずれも新人研修ではカバーしきれないため、オンボーディングによる人材の定着化が期待されています。
オンボーディングを実施するメリット
オンボーディングは、企業と従業員のどちらにもメリットがある取り組みです。人事や教育担当者だけでなく、部署を横断して多くの社員が新入社員をサポートするため、メリットは社内全体に及びます。
離職防止によるコスト削減
オンボーディングには離職を防ぐ効果があります。従業員が入社後に感じるギャップを低減し、一定のモチベーションを維持しながら長く働ける仕組みをつくることは、企業にとって大きなメリットとなります。
就職支援会社の調査によると、人材採用にかかる1人あたりのコストは、新卒者が72.6万円、中途採用者が84.8万円です。オンボーディングによって離職防止に取り組むことで、これらのコスト削減が期待できます。
組織風土の改善
オンボーディングを取り入れることで、企業のビジョンや価値観が社内に浸透するというメリットもあります。新入社員のみならず、教育する側の社員も自社で働くことの意義ややりがいを自分の言葉で語れるようになります。
部署を越えて社内のコミュニケーションが促進されることにより、職場全体の一体感が生まれ、風通しの良い組織風土がつくられます。
新入社員の能力がいち早く発揮される
オンボーディングには、「新入社員の即戦力化」効果も期待できます。入社後、スムーズに業務を覚えられるようサポートすることで、新入社員の成長が後押しされます。
「即戦力化」を目指す上では、企業の理念やミッション・各部署の役割・各種制度などの情報を過不足なく提供し、新入社員がいち早く組織に馴染めるように配慮することが重要です。
また、配属後のオリエンテーションでは部署の構成・役割・課題などの情報を共有し、新入社員が自分で動いて成果を出せるよう、会社・部署全体でサポートする仕組みをつくることも大切です。
社員の満足度・エンゲージメントを高める
オンボーディング導入の大きなメリットとして、新入社員の満足度・エンゲージメントが高まることが挙げられます。
オンボーディングがしっかり仕組化されている企業に入社した社員は、「入社前の不安が解消された」、「自分に期待されている」、「周囲のサポートにより安心して働ける」などのポジティブな感情をもって業務にあたることができます。
入社時の満足度・エンゲージメントを高めることで、社員のモチベーションが維持されやすくなり、早期離職の防止に大きく寄与することになります。

オンボーディングを行うときのポイント
本章では、人事担当者や新入社員をサポートする社員が知っておくべきことを解説します。
求める役割や期待値をすり合わせる
オンボーディングを行うときのポイントとしてまず注意するべきことは、求める役割や期待値をすり合わせることです。入社時・配属時に認識の齟齬がある場合は、ただちに修正する必要があります。
新入社員の離職理由として多く挙げられるのが、入社前後のギャップによる理由です。
待遇や条件・仕事内容・求められる能力など、入社して分かる現実とのギャップによってモチベーションが大きく低下してしまうことがあるため、認識のすり合わせは念入りに行うようにしましょう。
目標を細かく設定する(スモールステップ法)
一般的に、人は誰でも成功体験を積むことで自信を持てるようになります。新入社員のモチベーションを維持させつつ新しい業務を教えていくためには、小さな成功体験を積ませることがポイントです。
入社後間もない時期に、3ヵ月〜半年程度で達成できる目標を新入社員とともに立て、さらに現状の能力で達成可能な目標を複数のステップに分けて設定します。
このような計画で育成を進めることにより、新入社員の自己肯定感を高めつつ、効率よく業務を習得させていくことができます。
学習機会を提供する
オンボーディングを取り入れるのであれば、前提として土台となる研修制度がしっかり整備されていなければなりません。E-ラーニングなどの自己学習システムがあることや、専任講師による集団研修機会が設けられていることなどを、事前に確認しておきましょう。
これらの研修制度の整備にはある程度の初期コストがかかります。しかし、人材への投資は中長期的な視点で捉えなければなりません。
知識はアウトプットしていくことで成長が促されるという考えもありますが、そもそも知識の基盤づくりとしてインプットの場が設けられていなければ、スムーズな育成が困難になってしまいます。
メンター・トレーナーを育成する
オンボーディングのプロセスは、採用時からスタートしています。採用後から入社までの期間は、人事担当者はこまめに連絡を取り、信頼関係を築いておくことが重要です。
採用時にメンターをアサインし、入社までの期間にメールで新入社員からの質問に答えたり、相談に乗ったりするなどのサポート制度に力を入れている企業もあります。
配属後は先輩社員やOJT担当社員をトレーナーとしてアサインしてサポートし、直属の上司以外の「斜めの関係」を築くことで、入社後の人間関係の構築がスムーズになります。メンターとトレーナーの育成スキルがサポートの質を左右するため、専門機関にトレーニングを委託することも検討してみましょう。
組織全体で新入社員をサポートする
特定の人事担当者が担う新人研修とは異なり、オンボーディングは組織全体で新入社員をサポートし、育成する仕組みです。
リモートワークの企業であってもオンライン歓迎会を実施したり、グループウェア上で新入社員の投稿にすぐにコメントを付けたり、オンラインランチに誘ったりと、社員一人ひとりがオンボーディングの一翼を担うことができます。
また、新入社員としてはいち早く同僚社員の顔や名前を把握しておくことで安心感が増すため、名前と顔写真を掲載した人事情報システムが社内のコミュニケーションを円滑にする一助となる事例もあります。
【関連動画】若手社員のオンボーディングから定着まで~次のステップにつながる活躍支援とは
まとめ
オンボーディングは新入社員がいち早く組織に定着し、成果を上げられるよう働きかける一連のプロセスです。オンボーディングが実施されることで、離職防止によるコスト削減、組織風土の改善、社員の満足度・エンゲージメント向上などの効果が期待できます。
しかし、オンボーディングは特定の人事担当者だけでなく、組織が一丸となって継続的に取り組む必要があります。新入社員を迎え入れる前に、オンボーディングについて社内全体で話し合い、認識を共有しておくことが重要です。
この取り組みは、企業だけでなくその会社で働く社員にも大きなメリットをもたらす施策です。オンボーディングが普及することによって、ネガティブな理由での早期離職が減っていくことを期待します。