近年、日本は超高齢化社会となり人材不足が深刻な状況となっています。また、人材不足だけでなく、仕事をしながら介護を行うビジネスケアラーの増加も問題として挙げられます。本稿では、経済産業省のビジネスケアラーに関するガイドラインを参考にビジネスケアラーに関する現状と今後企業に必要な支援制度について紹介します。
ビジネスケアラーとは
ビジネスケアラーとは、仕事をしながら家族や親族の介護をする人のことで、別名ワーキングケアラーとも呼ばれます。
仕事と介護の両立は、肉体的にも精神的にも負担が大きく、長期的には労働における生産性の低下や介護離職に繋がってしまう事が近年問題となっています。
また、労働人口は減っている一方で、ビジネスケアラーは今後増加すると想定されている事から、ビジネスケアラーの問題に対して経済産業省のガイドラインの策定も行われました。今後、各企業はビジネスケアラーに対して適切なサポートを行う必要があることから近年注目されています。

ビジネスケアラーの現状と抱える課題
経済産業省ではガイドライン策定に至った経緯として、社会的背景について紹介されています。
要約すると、日本が超高齢社会に突入していること、共働き世帯の増加に伴い「実子」や「配偶者」が主たる家族介護の担い手となったこと、企業における人材不足の慢性化、大まかに分けるとこの3つの背景によって、今後の日本では、仕事と介護を巡る認識自体を今一度、改めていく必要があることから、ビジネスケアラーに関するガイドラインの策定がされました。
ビジネスケアラーに関する今後の推計
生産年齢人口の減少に伴い、更なる人材不足が加速する一方でビジネスケアラーは増加していくことが見込まれています。2030年には家族を介護する833万人のうち、約4割(約318万人)がビジネスケアラーとなると予測されています。
仕事と介護の両立困難による経済的影響
仕事と家族等の介護との両立が困難になることの影響は個人的なものだけではなく、社会としても大きな問題であると考えられています。経済産業省の見立てによると、介護離職や介護発生に伴う経済損失額は、現状のままでは2030年には約9兆円に上ると予想されています。
参考元:仕事と介護の両立支援に関する 経営者向けガイドライン 「Ⅰ はじめに ガイドライン策定に当たって」

図の出典:経済産業省における介護分野の取組について
ビジネスケアラーの抱える課題
現在の仕事と介護の両立に関する従業員の現状と課題について、経済産業省のガイドラインでは以下の3点が取り上げられています。
1. 自身の介護状況開示への消極性
育児とは異なり、明示的な始まりがないことで開示するタイミングを逃してしまう場合があります。また、言い出しづらい現状もあるため、開示しやすい環境整備が求められています。
2. 介護状況が個々人によって多様かつ可変であり、将来予測が困難
要介護や病気は急激に重度化する場合があることから、いつ介護当事者になるのか予測困難であったり、先の見通しが立ちにくいため、仕事と介護の両立支援制度に関する個別周知や、個々の介護状況に対する対応策を提案できるような窓口等の整備が必要です。
3. 肉体的負担に加えた精神的負担の増加
介護による負担は様々ある事から、仕事と介護の両立への不安を軽減するためには、両立しやすい職場の整備が必要です。
この様な課題がある一方で、企業において仕事と介護の両立支援が進まない構造的課題も存在していることが指摘されています。例えば、「仕事と介護の両立について企業経営上の優先順位が低いままであれば、より積極的な両立支援施策を打つという判断が困難になるため、情報発信や個別相談をはじめとした施策を取り組みづらくなる(1)」といったような、リテラシーが向上しにくい環境が生まれてしまい、ビジネスケアラーへの理解が得られない環境が残ってしまっている現状もあります。そのため、企業側は改めてこのような問題を認識し自社にあった対策を行う必要があると言えます。
参考・引用(1)元:仕事と介護の両立支援に関する 経営者向けガイドライン「Ⅲ.仕事と介護の両立に関する従業員や企業の現状・課題」
ビジネスケアラーへの対応を行う意義
さて、このような現状の中ビジネスケアラーに対して企業が対策を行う事にはどんな意義があるのでしょうか。
経済産業省のガイドラインによると、大きく2つの意義が紹介されています。
1. 人的資本経営の実現
近年では、従業員のスキルなどを最大限活用した中長期的な組織のパフォーマンス向上のための戦略として「人的資本経営」が注目されています。コロナ禍や経営環境の変化などに伴い、特に人的資本が課題として挙がってきていることから、「仕事と介護の両立」についても対応を行うことで、優秀な人材確保など、人的資本の確保を行えるとともに、「健康経営」や「DE&I」の人脈においても効果が期待できます。
2. 人材不足に対するリスクマネジメント
誰もが介護に直面する可能性がある事から、現段階での「仕事と介護の両立支援」を行うことで、管理職や経営層の多い年代に対してのケアができ、代替人員が容易でない人材を失うというリスクを軽減でき、今後の持続的な事業や組織運営におけるリスクマネジメントになり得るとされています。
仕事と介護の両立におけるリスクとリターン
1. 経営戦略
両立支援をしないことで、優秀な人材の欠損による経営目標や業績目標等の未達などの恐れがあります。両立支援の推進を行うことで、人材戦略だけでなく、組織としての成長につながる事や、競争力の維持など好影響に繋がることが考えられます。
2.組織マネジメント
両立支援をしないことで、欠勤や求職など意図せず勤怠が悪化してしまうことで、急な配置換えや異動調節が必要になってしまう事や、離職を招いてしまう恐れがあります。両立支援を行うことで、従業員の帰属意識の向上や、キャリアの持続性維持に伴う組織力の強化が期待できます。
3. 現場のパフォーマンス
実際に介護を行う従業員は、仕事に対してパフォーマンスの低下や集中力の低下を感じることが多く、業務ミスや遅延によって本人とその周囲の負担増加、更には取引先との関係性への影響などの懸念が挙げられます。両立支援を行うことで、これらのミスの抑制になるだけでなく、業務負担の最適化や事業継続計画の強化にもつながる事で、現場レベルでの顧客への対応が安定することも期待できます。
この様に、両立支援を行うことで、リスクへの対処だけでなく、長期的なリターンにもつながることが考えられます。

図の出典:仕事と介護の両立支援に関する 経営者向けガイドライン
参考:仕事と介護の両立支援に関する 経営者向けガイドライン 「II 企業が経営面において仕事と介護の両立に取り組む意義」
ビジネスケアラーに対して企業ができる/求められる取り組み
では次に、実際に企業ができる仕事と介護の両立支援や求められている取り組みについて紹介します。
経済産業省のガイドラインで紹介されているアクション
全企業が取り組むべき3つのステップ
このガイドラインでは、全ての企業が共通して取り組むべき事項として、「経営層のコミットメント」「実態の把握と対応」 「情報発信」の3つのステップがまず挙げられています。
まずは、経営層が介護について知り、社員にメッセージを発信したり、支援体制の整備を推進するなど「経営層のコミットメント」を行う事、その次にアンケートや人材戦略の具体化など「実態の把握と対応」をおこなうこと、そして両立支援に関する基礎情報の提供や、研修、相談先の明示など「情報発信」を行うことが介護両立支援をめぐる負のサイクルを断ち切るために重要です。

図の出典:仕事と介護の両立支援に関する 経営者向けガイドライン
企業独自の取り組みの充実
他にも、企業の事情や能力に合わせて実施する独自の取り組みの充実を行う必要があります。たとえば人事労務制度を充実させる場合には、、テレワークなど働き方の柔軟性を持たせることやダブルキャスト制という2人態勢での業務の導入などの対応により働きやすさを確保することが重要です。
また、個別相談をするための窓口の設置や介護に直面する従業員と今後その可能性がある従業員が知見を共有できるコミュニティを形成するなどの対策も望ましいとされています。
そして、これらの効果の検証を行い、フィードバックを得る事で支援や施策の改善を行っていくことが良いでしょう。
外部との対話・接続
企業内だけでなく、外部にも介護の両立支援に関する取り組みについて発信することで、投資家や従業員の家族、就職や転職を検討する将来的な従業員候補へのアプローチを行うなど、社外に情報発信をすることで企業価値の向上を行う事も重要となります。
また、介護関連サービスとの連携を深めるなど、従業員が適切な介護資源にアクセスできるような支援を行うことで地域と連携した両立体制の構築を目指すことができれば、より授業員の負担軽減も測れると考えられます。
参考:仕事と介護の両立支援に関する 経営者向けガイドライン 「Ⅳ 企業が取り組むべき介護両立支援のアクション」
まとめ
近年、ビジネスケアラーの問題は深刻であり、企業は対策を求められています。企業が求められる取り組みは複数あり、仕事と介護の両立支援を行う事は組織にとってもメリットがある一方で迅速な対応は簡単ではありません。そこで、社員ひとりひとりの現状を把握しエンゲージメントを行うことや、介護経験者とそうでない社員をつなぐコミュニティ形成にもエンゲージメントサーベイの活用がおすすめです。ラフールサーベイはサーベイだけでとどまらず、組織改善につなげるためのカスタマーサクセスが徹底サポートされているため、ビジネスケアラーへの支援においても是非ご検討ください。